コラムコラム
僕のホームグランドである東武伊勢崎線沿線の住民は、電車の中で本を読む習慣のない人たちが多い。 電車内で活字を読んでいる人といえば、スポーツ新聞や「夕刊フジ」のヤラシイ記事を食い入るように見ている中年オヤジがほとんどだ。 ケータイのメールを読む人も案外（あんがい）少なく、ケータイ姿で目立つのは、まっ黒に日焼けした肌がマブシイ、馬鹿デカイ声で通話するタンクトップ姿のヤンキーなオネエちゃんばかりである。 しかし、「モクローくん」こと南陀楼綾繁（ナンダロウアヤシゲ）さんや「エンテツ」こと遠藤哲夫さんらが、東武伊勢崎線の北千住や五反野の古本屋や飲み屋に立ち寄ったことをＷｅｂ上や雑誌等で紹介してからというもの、電車内では文庫や新書をひたすら読みまくり、最寄り駅に着くやいなや、駅界隈（えきかいわい）の居酒屋の暖簾（のれん）をくぐる、クソ暑い真夏でもスーツ姿の、イカした美人ＯＬさんがにわかに目立ってきた。 僕が帰りがけに立ち寄る地元の『よむよむ』（本屋さん）も、そこらへんをちゃんとわきまえていて、最近、美人ＯＬさん向けに本の棚揃え（たなぞろえ）をガラリと変えてしまった。 そのおかげで、８月中旬開催の「ジサブロウ」こと畠中理恵子店長が営むヘンな書店（別にヘンじゃないけど、やっぱりどこかヘンな）『書肆アクセス』のフェアでお世話になる、岡崎武志さんの著書『古本道場』（直木賞作家・角田光代さんと共著。ポプラ社・本体価格１４００円）と『古本生活読本』（ちくま文庫・本体価格７８０円）を、わざわざ大きな本屋へ行くこともなく、何の苦もなく手に入れることができた。 それはそれでタイヘン便利でウレシイのだけれど、ちょっと僕にとっては問題がある。 昔からここらへんの本屋は、人気マンガの最新刊を買いに来るコドモと週刊誌とエロ本を買いに来るオトナを相手にしているので、売れ筋の週刊誌やマンガを店の入り口のよく見える場所に置き、レジにいちばん近い棚にエロ本とカメラ雑誌を並べるのが一般的なスタイルだった。 いちおう写真のホームページを作っている僕なので、カメラ雑誌の新しい号が出るたびに気にはなるし、なんとなくチェックもしている。 だから本屋へ行くと、レジ付近で『アサヒカメラ』なんかを手にしようとして、アレッ？ いけない、手がすべった、まちがって『デラ・べっぴん』をつかんじゃったよ、しょーがないなぁ、じゃあ、中身を見てやるか、デヘヘヘ（フィクションですよっ！ 断じて！）、という密（ひそ）かな楽しみがあったのだが、現在の『よむよむ』のレジ付近の棚はレディス向けファッション誌でごった返しており、肝心（かんじん）のエロ本はレジから百万光年以上の彼方（かなた）へ置き去りにされてしまって、僕としては楽しみを奪われた形で、なにか憤（ふん）まんやるかたない思いをしている。 さらに、必ずエロ本のそばに寄り添っていたカメラ雑誌が、クルマ雑誌の棚の横、『大人の科学』（学研）やアマチュア無線関係の雑誌といっしょのところへ隔離（かくり）されてしまい、よけいに腹を立てている。 この『よむよむ』の棚の配置（はいち）は確かによく考えられていて、お客のツボをみごとにとらえていて感心する。いかにも『大人の科学』の電子ブロックやマイキット（新製品！）を買いそうな、黒ぶちメガネにＹシャツ姿の、ショルダーバッグをたすき掛けにしている４０歳代前半くらいのおたく系サラリーマンたちはカメラ雑誌が大好きだ。 だが、そのおかげで困ったことに、このサラリーマンたちは『よむよむ』の術中にまんまとハマり、カメラ雑誌を手にすると平気で１時間も２時間も立ち読みするようになってしまった（しかもコイツら、そろいもそろって、読むだけでゼッタイ買わない！）。 僕はただ、カメラ雑誌をちょっとパラパラめくり、おもしろい記事が載（の）っていればレジでお金を払い、家へ帰って寝っ転がりながら読みたいだけなのだが、このサラリーマンたちの壁に阻（はば）まれ、なかなかカメラ雑誌に手に取ることすらできなくなってしまった。 じゃあ、エロ本でも眺めていようかと思っていると、こともあろうにエロ本の棚の横には、ＮＨＫのテレビ、ラジオ向けのマジメな教材が、エロ本の背後の棚にはイラク戦争やテロ問題などの社会問題を扱った本が、さらにその横は人文や宗教・哲学書が並べられ、トドメにそれらの本を眉間（みけん）に皺（しわ）を寄せ、腕組みしながら選んでいるスーツ姿の美人ＯＬさんたちが立ちはだかっているのだ。 「この場所でエロ本を読めるものなら読んでみなさいっ！」と、『よむよむ』に挑戦状を叩きつけられている僕。しかも、レジに辿（たど）り着くまで百万光年だ！ ああ、この地元の『よむよむ』で、イカした美人ＯＬさんの蔑（さげす）みの視線（しせん）をものともせず、「うむ。やはり写真はオンナのハダカに限る！」と悠然（ゆうぜん）とエロ本を物色し、気に入ったものがあれば毅然（きぜん）とした態度でレジへ向かう、そんなエロ本の達人が現れないだろうか。 僕は、ここのエロ本の棚を『古本道場』ならぬ『エロ本道場』と勝手に命名し、日夜（にちや）、美人ＯＬさんたちの視線に耐えながら、修行に励（はげ）もうと心に誓（ちか）うのだった。 （誓わない、ゼッタイ誓わない！） 書肆アクセス・フェア第１弾！ ■岡崎武志さんが選んだ 書肆アクセスの１６冊■ ２００５年 ８月１５日(月)〜９月１０日(土) 古本ライターでおなじみ岡崎武志さんが、『書肆アクセス』の本棚からお気に入りの本を選んでフェアを開催します。みなさま、お楽しみに。  （追記） 神田神保町の書店・書肆アクセスは2007年11月17日に閉店いたしました。 みなさまご愛顧いただきありがとうございました。 |
 『大人のウォーカー』 ９月号（角川書店）に 岡崎武志さんと角田光代さん の記事が載っていました。 タンクトップ姿の 角田さんにドキリ。 |
コラムTOPへ