コラム

カメラ女子(ウーマン)


 子どものお気に入りのぬいぐるみや人形が、図書館で一晩を過ごす、『ぬいぐるみのお泊まり会』というイベントを、アメリカの公共図書館で実施されているという記事が、日本の図書館関係のインターネットサイトに掲載されたのは、たしか昨年(2010年)の9月のことだった。

 その記事がきっかけとなり、日本の公共図書館でも、昨年末から今年(2011年)にかけて、この『ぬいぐるみのお泊まり会』がちょっとしたブームになりかけている。

 『ぬいぐるみのお泊まり会』は、ぬいぐるみが図書館の本を読んだり、図書館のなかを探検している様子を撮影し、ぬいぐるみが読んでいた本を、子どもたちにも読んでもらい(本を貸し出す)、ぬいぐるみの写真をご家族に記念としてプレゼントするというものだ。

 それまで私が勤めていた葛飾区の図書館でも、今年の4月におこない好評を博したのだが、8月から勤め始めることになった渋谷区の図書館でも、『ぬいぐるみのお泊まり会』を開催すると聞かされていた。

 8月20日、渋谷区の某図書館にて、『ぬいぐるみのお泊まり会』の撮影がおこなわれた。

 葛飾区の図書館では、私は撮影をまかされていたので、今回もカメラマンとして撮影に駆り出されるのかと思っていたが、この図書館では私の出番はなく、後方支援(撮影したもののプリントアウト)に回った。

 ぬいぐるみの撮影を担当したのは、同じ職場の女性スタッフと、助っ人としてやってきた別の図書館の女性、このイベントを企画した某出版社の社長が連れてきたセミプロの男性の3人。
 さらに、イベントの取材にきたカメラマンの女性(カメラウーマン?)が2人と、閉館後、撮影時間はわずか2・30分に過ぎないぬいぐるみ撮影を、えらく物々しい人数でおこなうこととなった。

 ぬいぐるみの撮影でいちばん苦労していたのが、この日唯一の男性だったセミプロの方だった。

 いろいろなシチュエーションを想定して、バリアングル液晶のデジタル一眼(パナソニックのLUMIX Gシリーズ )、三脚、スレーブ機能のあるストロボ、各種ライト類、さまざまな機材を持ち込んではみたものの、自分の思い描いていたイメージと現場のぬいぐるみたちは違うらしく、かなり頭を抱えていた。

 あと私もそうなのだが、男性特有の気質として、失敗を異常に恐れるところがある。与えられた仕事(撮影)を完璧にこなさなければならないというプレッシャーから、思い切った撮影ができないのだ。
(誰からも『完璧』な写真など求められていないのだけれど)

 それに引き換え、女性カメラマン(カメラ女子?)たちは、実に楽しそうに撮影していた。

 お気に入りのデジタル一眼レフ(1人は真新しい白ボディのペンタックス、あとの2人はかなり使い込んだキヤノンとニコンの入門機)で、しっかり脇をしめ、じっくりとファインダーを覗き込む、じつに基本に忠実なカメラの構え方から、彼女たちは、写真を撮るということがほんとうに好きな人たちなのだというのが、ひしひしと伝わってきた。
(いつもコンパクトデジカメを片手で振り回し、無作為に写真を撮っている自分自身がとても恥ずかしくなりました)

 その場その場で、シチュエーションをふくらませたり、撮影機材が足りなくても、そこらへんにあるものを臨機応変に使って対応してしまう、彼女たちの発想の柔軟さにも感心させられた。
 取材に来た女性のなかの1人は、デジカメを持ってきていなかったらしく、自分の携帯電話で撮影をしていた。
(インターネットのウェブ上に掲載する写真なので、わざわざ重たい一眼レフカメラを持ってこなくても、携帯電話のカメラ機能で十分な画質が得られるとわかっていたのだろう)

 写真家、カメラマン、フォトグラファーと、写真を撮影する人の称しかたはいろいろあるのだが、写真を心底楽しんでいる現代女性たちにしっくりくる、カッコイイ呼び名はないのだろうか。
(このまま、『カメラ女子』という名が定着していくんでしょうかね?)


◆◆◆◆◆

(追記)
 私は気づかなかったが、この日にもう1人、取材に来ていた男性がいたそうだ。
 
 なにか、その人は図書館員(女性を想定している)が凛々(りり)しく働いているすがた(リアリズム写真っぽいもの?)を撮影したかったらしく、館内でぬいぐるみを見て「カワイイ」を連発している女性たちを見て「撮りたいテーマと違う」と言って、早々と帰られたらしい。

 その話を聞いて、写真を撮る男性って、(私も含めて)どうしてこうも頭の固い人たちなのだろうと思った。「私は『写真家』である」という、自意識が邪魔をして心から写真を楽しめていない気がする。
(すぐ機材に頼るところも(もちろん私を含めて)ダメダメだと思う)




 



ぬいぐるみの撮影の助っ人に
きた女性の、
キヤノンEOS Kiss Digital。
もしかして初代?
かなり
使い込んであるすがたに
好感が
持てます。








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