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長島有里枝や蜷川実花、ＨＩＲＯＭＩＸなどの、１９９０年代に注目を浴び、その後も活躍を続ける、１９７０年代に生まれた女性写真家たちの写真を、巷（ちまた）では『ガーリー・フォト（女の子写真）』と呼んでいる。 彼女たちの写真は、荒木経惟の『私写真』とよく比較される。 女性の彼女たちが撮影する『ガーリー・フォト』と、男性の荒木が撮影する『私写真』とでは、写真から漂う空気（気分）がまったく異なる。 それは、写真集のタイトルからも窺（うかが）い知れる。 荒木経惟の実質的なデビュー作のタイトルが『センチメンタルな旅』（自費出版・１９７１年）である。 『センチメンタルな旅』は、荒木経惟と妻・陽子の新婚旅行を撮影した写真集でありながら、二人の新しい門出（かどで）に心躍（こころおど）らせるような写真が１枚も存在しない。 荒木は旅を始める前から、すでに旅の終わり（陽子との別離＝死）を思い描いている。したがって、ファインダー越しに陽子を見つめる荒木の写真は、絶えずセンチメンタル（感傷的）な気分に支配されている。 一方、ＨＩＲＯＭＩＸのデビュー作は『ｇｉｒｌｓ ｂｌｕｅ』（ロッキング・オン・１９９６年）という。 『ｇｉｒｌｓ ｂｌｕｅ』は、女の子である私（ＨＩＲＯＭＩＸ）が、私が好きな物（モノ）、私の好きな景色、私が好きな友達、そして私自身（セルフポートレート）を、コンパクトカメラで撮り続けていくうちに生まれた。 気の合う仲間と面白おかしく毎日を過ごしているつもりなのに、なんとなくつまらない。ほんとうに自分が求めている居場所はここにはないような気がして、みんなと笑っていながらも、どこか居心地の悪さを感じてしまう。 ＨＩＲＯＭＩＸのセルフポートレートには、そんなブルー（憂鬱（ゆううつ））な気分が見え隠れしている。 確かに「ガール（女の子）」で「ブルー（憂鬱）」だった９０年代の彼女たちの写真には、セルフポートレートが多かった。 これを「自分探しの旅」として受け取られ、彼女たちの写真を、自閉的で退屈な、自己満足の世界に過ぎないのではないか意見する者も少なくなかった。 だが、３０代の女性になった現在の彼女たちの活動を見ていると、それは大きな誤解だったように思えてならない。 彼女たちは、私たちが考えているよりも、ずっと前向きで強（したた）かだ。 彼女たちは、自分の居場所を探す「旅」をしていたわけではなかった。 彼女たちは、新しい出会いを求め続けて生きてきたのだ。 （被写体に）出会った瞬間、「旅」の終わりを意識する荒木経惟の『私写真』。 一方、彼女たちの『ガーリー・フォト』は、（被写体に）出会う瞬間の始まりを、つねに意識して撮影している。 「旅」は、自分の居場所へ戻った時点で終わるが、彼女たちは居場所を求めなかった。 新たな出会いを求めさすらう彼女たちは、「旅」ではなく、むしろ「漂泊」を繰り返している。 この写真集の著者である在本彌生は、１０年以上、外資系の航空会社で客室乗務員として勤務してきた。 本格的に写真を始めたのは、２０００年頃からと書かれているので、遅れてきた『ガーリー・フォト』グラファーといえる。 職業柄、空の上を行き来する飛行機の中で、「旅」する人たちを見送ってきた在本の写真からは、３０代の『ガーリー・フォト』の写真家たちが抱える「漂泊」する気分が、もっとも純粋（ピュア）に漂っている。 『ＭＡＧＩＣＡＬ ＴＲＡＮＳＩＴ ＤＡＹＳ』というこの写真集のタイトルからも、在本彌生の気分が伝わる。 「トランジット」とは、通過するという意味だ。 また、客室乗務員だった在本からすれば、飛行機が目的地へ着く前に給油などで一時的に立ち寄ることを意味する。 つねに新しい出会いを求めて、カメラを手に国から国へと通過（トランジット）し続け、摩訶不思議（マジカル）な毎日を続ける在本彌生には、帰る場所（自分の居場所）は必要ないのかもしれない。 「漂泊」の途中、ほんの少し体を休める（トランジットできる）宿があれば、彼女はいつまでも、出会いを求めてさすらっていられるのだろう。 １９７０年生まれの在本彌生も、現在、３０代。 ４０代、５０代になった「漂泊」する彼女たちの『ガーリー・フォト』が、どのように進化（深化か？）していくのか？ これからも、彼女たちの写真がとても楽しみである。 （彼女たちの前には、『ＡＰＡＲＴＭＥＮＴ』（写真通信社・１９７８年）、『絶唱・横須賀ストーリー』（写真通信社・１９７９年）から、『ｓｃａｒｓ』（Ｒｉｃｏｃｈｅｔ（リコシェ）発売（発行：蒼穹舎）・２００５年）へ進化（深化）し続けていく石内都という女性写真家がいる） |
ＭＡＧＩＣＡＬ ＴＲＡＮＳＩＴ ＤＡＹＳ マジカル・トランジット・デイズ 在本彌生 アートビートパブリッシャーズ 定価 ２９４０円 （本体価格 ２８００円＋税） |
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