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尾仲浩二が、８０年代から９０年代にかけて撮影したモノクロームの写真集。 ９９年からネガカラー写真に転向した尾仲浩二だが、提示される写真は、モノクロでもカラーでも、３５ミリフィルムから丹精にプリントされた旅の写真であることに変わりはない。 尾仲浩二の一連の写真を見る度、フィルムから紡ぎだされた写真であることを実感させられる。 暗闇の中、フィルム越しに光を当てた印画紙という名の小舟は、現像液・停止液・定着液の三つの川をのんびりと渡る。 尾仲の旅の記憶は、現像液に浸すとじわりと浮かび上がり、定着液にたどり着く頃には、暗闇から光が差し込み、記憶は印画紙に包み込まれ、それは写真となる。 デジタルカメラで撮影したものに、記憶は介在しない。画像データという記録媒体が保存されているに過ぎない。 デジタルの世界では、コンピュータとプリンタの置かれた明るい部屋で、画像データを加工し、印刷されたものが写真と呼ばれる。 暗闇の中で記憶を旅するフィルムの世界とは、明らかに別次元の写真である。 この写真集を目にする時、私たちに求められるのは、尾仲浩二の旅の記録を確認する作業ではない。 私たちは、尾仲浩二という旅人の記憶に包まれることを求められているのである。 |
ｓｌｏｗ ｂｏａｔ 尾仲浩二 Ｒｉｃｏｃｈｅｔ（リコシェ） （発行：蒼穹舎） 本体価格 ３８００円 |
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